年を重ねると、父親は息子、母親は娘を頼るようになる

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「親父とはよくケンカしたけど、今はいちばん相談できる相手」

「親父は何もしてくれなかった。学校のお金も奨学金で工面し、今は働きながら返しているんですよ」

25歳の美容師がビールを一気にあおった後で、しみじみ語りだした。

「親父とは、よくケンカしたなあ。殴り合いもあった。でも、今は親父が好きなんです。いちばん相談できる相手だから」

なじみのお店で隣り合った若者。
堀の深い顔。
唇の周りに少しだけはやしたヒゲ。

そのお店で顔を見かけるのは3回目だが、よく話す彼を見るのは初めてだった。

「息子と暮らせて、父さんは幸せだったんだよ」

ふと思い出す。

父と自分のぎくしゃくした関係。

二人になった時の間延びした、必要のない会話。
大事なことは、母を介して入ってくる父の言葉。
「体大事にするように父さんが言っているよ」という様に・・・。

そんな父が、母が亡くなった半年後に他界。

(最後は名古屋で一緒に暮らせて良かった)

一挙に親を亡くした寂しさを紛らわすために、私は自分に言い聞かせていた。

しばらくして、姉がこう言ってくれた。

「父さんは幸せよ。だって父さん、あなたと暮らしたいって前から言ってたからね。それが実現したんだから」

衝撃が走った。
一緒に暮らしたかったのは、母の方ではなかったかと勝手に思い込んでいたからだ。

「母さんはあなたより私。子供が成長すると、父は息子、母は娘に頼るようになるのよ。同性は分かり合えるからかもね」

新鮮な、姉の哲学。

(確かにそうかもしれない)

父の笑顔がよぎる。
何かが心の中で溶けていく。
温かいものがこみ上げてくる。

「父さん、有り難う」

「親子っていいものですね。俺も今度、久しぶりに親父と飲もうかな」

僕の話に、彼は笑顔を返してくれた。