事業承継が失敗したことを、同業の友人社長に報告。
「はっきり言って、会社を180度変革しない限り、要望に応えられそうにない。それに・・・」
私は同業のH氏に、正直に悩みを打ち明けることにしました。
H氏とはカラオケの趣味が一緒で、定期的にスナック通いをしていた仲でした。
年齢もほぼ変わらず、同年代なので歌う歌も似通っていました。
昔の歌を歌うと、懐かしさがこみ上げてきます。
あの時はこんなことがあったなあ・・・としみじみ、利害関係を抜きにした過去の情報交換を頻繁にしていたので、人となりは前から解っていました。
私はH氏を信頼していました。
私は、3年前に事業承継することを決断し、後継者育成に踏み切ったものの、大失敗した話を、初めてH氏に告白しました。
H氏は、何度も頷きながら耳を傾けてくれました。
同業として、お互いリーマンショックの傷が癒え切っていない時期でしたので、H氏にも、私の苦境は伝わったようでした。
「大変だったんだね。うちもね・・・」
今度は、H氏が自社の苦境を語り始めました。
今回の売上バーの大幅変更は、H氏にとっても、大きな会社経営の改変を促すものだったようです。
それもそのはず、後発ながら、当社の2倍以上の売上規模にはなっていたものの、事情は一緒だったのですから。
「一緒になったら面白いかもね」の一言から始まった。
どちらが、そのセリフを言ったのか、今は定かではありません。
最初は冗談半分のつもりでした。
でも、言葉を発した瞬間、しばらく沈黙の時間が流れ、2人は神妙な面持ちになっていたようです。
2社の売上を合計すると、売上バーを超えることに、お互い気づいたのです。
――会社売却のてん末は、このひと言から始まったのです。
仮に一緒になるなら、と「仮に・・・」という条件付きで話が続きました。
その中で、私を悩ませる話が出てきたのです。
51%の株の権限は圧倒的に大きい。
それは、どちらを仕入先の窓口にするか、つまりどちらの影響力を大きくするかという話でした。
具体的には、どちらが株を多く持つかということでした。
つまり、51%以上の株取得者はどちらかという話です。
51%の株取得者の権限は大きく、それは天と地の開きがありました。⇒下欄の※をご参照ください。
仕入先との関係上、前提として対等合併はできないことは周知の事実でした。
社歴はこちらが10年ほど上回り、年齢も上ですが、売上規模はH氏の会社の方が圧倒的に上。
当然、M&Aするなら、私が売却する側、H氏が買収する側になるのが自然の流れでした。
そして、話し合いの中で、H氏はその立場で話をしていることが分かりました。
「仮に・・・」とはいえ、私の眠っていたプライドがむくむくと表面に湧いてきたのです――。
「・・・お互い、持ち帰って、じっくり考えてみようか」
私は、そのプライドを悟られないように、話を突然切り上げることにしました。
その時以来、1カ月ほどH氏と会うことはありませんでした。
--自分の中に、ひとりの人間と一匹の魔物がせめぎ合っていました。
※51%の株を保有すれば、その権限は限りなく100%に近いものです。
一方、49%の株を保有している人は、極論を言うと、限りなくゼロに等しい権限しかありません。たかが2%の僅差に見えますが、法律上は、権限に圧倒的な開きがあるのです。
分かりやすい例を上げますと・・・。
代表取締役を選任するケースを想定してみましょう。
代表取締役は株主総会の過半数の多数決で決議されます。
つまり、49%では、代表取締役を選任することができないのです。
※次回はコチラから↓