あなたに、会社の行く末を相談する相棒と社員はいますか?

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☆少し戻りまして、私の会社売却の体験談の続きです。

20年を超えた会社は、成人した子供のようなもの。成長を止めてはいけない。

「仮に会社を売却するなら・・・」と、人材採用の同業社の社長、H氏と話し合いを進めながらも、私は、会社を売ることに対して、さまざまな色眼鏡で見ている自分に驚いていました。

(やっぱり社長を続けたい)

心の奥底では、そう叫んでいる自分がいました。

(やっぱり、会社の将来は親族か幹部社員に委ねたい)

5人の後継者候補を失い、息子に嫌な思いをさせた失敗経験をしながら、懲りずにそう思う自分もいました。私は、あきらめの悪い自分を持て余していました。

この(やっぱり・・・)は、自分の20年以上会社を続けてきたという、過去への思慕に引っ張られて出てきた思いであることは明らかでした。

会社は身内であり、子供のような存在でした。

(過去を断ち切らなくちゃ、前に進めない)

私は迷路の中で右往左往していました。

20歳を超え、成人した子供のような会社の成長を止めてはいけない・・・。

会社の売却を考えたなら、悩みを打ち明ける相棒がいた方がいい。

そんな時、仕入れ先の経営渉外スタッフのO氏が声をかけてきました。彼は、私の会社が成長するためのアドバイザーのような存在でした。

滅法、数字に強く、仕事に関しては冷徹なところもありましたが、元来は人情に厚い男でした。

当時の私は53歳、Oは47歳。当社の経営渉外スタッフになって5年経っていました。

「がくさん(私のあだ名)、何か悩みがありますね?」

Oは鋭いセンスの持ち主でもありました。

ストレートに切り込んできました。

ベテラン社員に、会社の売却についての意見を聞こうとしていた矢先だったため、きっと、その悩みが顔に出てしまい、Oはそれを見逃さなかったのでしょう。

振り返ると、私が50歳になり、身内への事業承継を決意した時、私はOに相談を持ち掛けていました。

後継者候補の育成に関しても、Oは協力してくれました。

その育成にことごとく失敗し、落ち込んでいる時も、Oは落ち込む私を鼓舞してくれました。

私は、馴染みの居酒屋にOを連れ出し、悩みを聞いてもらうことにしました。

・今回、H氏と「仮に会社を売却するなら・・・」という条件付きで話し合いをしている件
・様々な悩みが押し寄せてきて身動きが取れなくなっている件
・ベテラン社員にどう切り出したらいいか悩んでいる件

私はOにこと細かに打ち明けることにしました。

事業承継は、自分のためだけじゃない。苦境から逃げるためでもない。

「がくさん、何のために事業承継するんでしたっけ?」
「誰のために事業承継するんでしたっけ?」

私の話を聞き終えたOは、矢継ぎ早に質問の矢を向けてきました。

私は、その言葉に、急所を突かれたように、愕然としてしまいました・・・。

(自分のため・・・だったんだ)

そのホンネが心に飛び込んできて、心をえぐった。

続いて、7つの具体的なホンネがカタチを現した。

・自分には手掛けたい夢があった。
・ネット商品の扱いが苦手な自分がいた。
・生産性や効率の向上を疎かにしていた自分がいた。
・バブル・リーマンに次ぐ第3のショックが来た場合、会社を持ちこたえさせる自信がなかった。
・前ほど、事業への情熱が湧かない自分がいた。
・大手仕入先からの要求に、自力で応えられる自信がなかった。
・3年間の後継者育成に失敗し、経営者としての自信を失いかけていた。

全ては自分の将来のため、自信のない自分の苦境から逃れるため、だったのだ。

心の奥底に沈殿していた頼りない自分が、Oの質問で浮き彫りになってきたのです。

経営理念に戻ろう。会社売却の目的は、社員の成長のためだった。

「がくさんを責めているわけではありませんよ」

私の愕然とした表情から、Oは何かを読み取ったようでした。

・・・一拍置いて、Oはさらに質問してきました。

「僕ががくさんと出会ったとき、既に会社の経営理念、作っていましたよね?」

「そう。『お客様のそばで自己実現。真心経営で幸せへの貢献』――ずいぶん前に作ったものなんだ」

私は気を取り直すためにも、経営理念に思いを馳せていた。

「どういう意味でしたっけ?」

Oは、質問を被せてきました。

私は、悩みを解決するためにも、素直にOの話の流れに乗ってみることにしました。

「これはね・・・」

・社員一人ひとりが、
・自分自身の成長のために、
・お客様の人材採用を、
・自分と自分の会社ができうる手段を用いて、
・成功するまでお手伝いすること

「・・・そういう思いで作った経営理念なんだ」

私は、文節を区切るように、ゆっくりと話していました。

「その経営理念に照らし合わせると、最初に戻りますが、がくさんは、何のために、誰のために事業承継するんでしたっけ?」

私の中に、ストンと落ちてくるものがありました。

「社員の成長のために事業承継するんだ!」

そして、こう付け加えました。

「社員のために会社を売るんだ!」

私の声は大きくなっていたようです。

周りの酔客が、何事が起ったのかと、一斉に私の方に視線を向けてきました。

「がくさん、事業承継は経営理念と一体で捉えるべきです。もちろん、会社の売却に関しても、それは一緒です」

Oのその締めの言葉に、私は腹落ちしました。

相棒とともに、ベテラン社員との会合を持つことになった。

私はOと話し合い、営業から1名、制作から1名、事務から1名、長年貢献してくれた、気の置けないベテラン社員を集めることにしました。

「会社を売ることになったよ」
社員にそう伝えた場合、少なからず動揺を与えてしまうに違いありません。
モチベーションが下がって、退職者が出てしまうかもしれません。
それを防ぐためでもありました。

Oは、古参社員3人との話し合いにファシリテーターとして入ってくれることを約束してくれました。

「正直に話してください。社員からは忌憚のない意見をもらえばいいと思います。腹を割って話すことです」

Oはひとつだけ釘を刺してきました。

「社員が意見を言い終わるまで、一切口を差し挟まないでください。否定もしないでください。本音を言ってもらうためです」

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