「愛の会社エグジット」への道① 後継者育成、最初はうまくいくと思っていた

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私が会社を第三者に事業承継したのは会社を経営して25年経った時でした。

その間、会社を倒産の危機に追いやったことが2回ほどありました。
応援してくれていた両親が立て続けに他界しました。

複数のベテラン社員を後継者として育成しようとしましたが、ことごとく失敗しました。

そして、ふとしたことがきっかけとなり、1年後には会社を売却することになったというわけです。売却に至るまではさまざまな葛藤がありました。

今回は、シリーズで、そのてんまつを小説仕立てでご紹介します。
読んでいただけたら幸いです。

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まさか、会社を売ろうなんて、その時は全く考えていなかった

私は、50歳(会社設立20年)を迎えた時、できたら55歳、遅くとも60歳までには事業承継しようと決意しました。

人生100年時代、学生時代からやって見たかったことに専念できたら・・・そんな夢の実現がベースにありました。

夢もありましたが、同時に、もっと現実的な問題が私の前に立ちはだかっていたというのが正直な話です。

具体的には、こうです。

・広告業界ではネット媒体が主力になってきていて、紙媒体主体で生きてきた自分にとって、やりにくくなってきていた。
・AI、IoTによる第四次産業革命への準備がおろそかになっていた。
・バブルとリーマンの2大ショックからは立ち直ることができたが、これから来るであろう第3のショックに対応できないのでは、という不安を抱えていた。

・事業への情熱を失いかけていた。
・大手仕入先からの新たな提案に悩んでいた。

社員15人規模の小さな会社。このままの経営状態でも続けることはできると思っていましたが、そういう理由から、このままではいつか廃業せざるを得ない・・・それを防ぐため、経営をバトンタッチできる後継者に引き継ごうとしたわけです。

でも、当時、明確な後継者がいるわけではありませんでした。

そこで私は、長年勤めてくれたベテラン社員を後継者として育成することにしました。

この時は、まさか会社をエグジットするなんて、全く考えていませんでした。

 2人の幹部社員の退職は、私の焦りが原因だった

私は、ベテラン社員2名(20代後半と30代半ば)を後継者候補として育成することにしました。まずは、ある高いミッションを与え、それを1年間で達成できるかトライしてもらうことにしました。

 でも、見極めるのに1年は短すぎました。2人とも、私の要求に応えようと汗水流すのですが、なかなか思い通りの結果を出すことができません。

1年で後継者を決めるなんて、今考えると無謀な計画です。リーマンショックによって業績が急激に悪化したこともあり、私は焦っていたようです。

そんな折、あるきっかけで、2人を幹部研修に出席させることにしました。
結構大きな投資でした。

その研修は、自分の今までの人生を振り返り、自分のこれからの生き方と会社の向かう方向の一致する部分を探り、仕事のモチベーションを上げる研修でした。

これが直接の引き金になったわけではないのですが、一人は転職、一人は独立の道を選ぶことになりました。2人とも次の道で幸せな人生を歩いています。今も交流はあります。結果、これで良かったのですが、もっと計画的に育成する必要があると反省させられました。

キャリア採用の3人も、結局は会社を去っていった

私は次に、後継者候補の公募に着手することにしました。

私の会社は、求人広告の代理業を生業としていました。人材採用を考えている企業に対して、求人誌への広告掲載を促し、企業と仕事を探している人をつなぐお手伝いをする仕事です。

平成元年、30歳の時に設立し、事業承継を考えた50歳の時には、20年の年月が過ぎていました。それまでに延べ2万5000社(実質7500社)の企業の人材採用のお手伝いをし、5万人以上の採用に関わらせていただきました。

その顧客資産を引き継ぎ、次の成長を一任できる人間。社内にいなければ社外から、との思いからの公募でした。この段階でも、会社をエグジットするなんて、露ほども考えていませんでした。

3年間の間に3人採用しました。

採用基準は、同業、もしくは周辺事業で、営業とマネジメント経験のある人間――結果、優秀な人間と出会うことができたのですが・・・私の期待値が高かったことが災いしたのでしょう。結局、3人とも会社を去っていきました。

自分の不甲斐なさに茫然とし、しばらくは立ち直れませんでした。

当時、よく同業の社長たちの顔が頭をよぎりました。
何社かの社長には、既に後継者がいました。

(経営者失格だな)

コンプレックスと喪失感に押しつぶされそうになる時もありました。(次回に続く)

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