「愛の会社エグジット」への道 第9話 売り手側につくことを嫌がる顧問税理士を「相棒」にした理由

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私が会社を第三者に事業承継したのは会社を経営して25年経った時でした。
その間、会社を倒産の危機に追いやったことが2回ほどありました。

応援してくれていた両親が立て続けに他界しました。
複数のベテラン社員を後継者として育成しようとしましたが、ことごとく失敗しました。

そして、ふとしたことがきっかけとなり、1年後には会社を売却することになったというわけです。売却に至るまではさまざまな葛藤がありました。

今回は、シリーズで、そのてんまつを小説仕立てでご紹介します。
読んでいただけたら幸いです。
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お互いの成長を20年間支え合ってきた顧問税理士とは――

場面が変わります。

「私の相棒になってほしい」

ある晴れた日の午後、私は、名古屋の伏見にある大手ホテルの喫茶店で、テーブルの向こう側に座る、顧問税理士のY氏に頭を下げていた。

会社を設立して5年目。

バブルショックから立ち直ろうとしている時、35歳になっていた私は、Yに出会いました。きっかけは、会社のひとりのメンバーが、新規の顧客開拓をする中で、Yと面識を得たことでした。

「新しい事業計画があるから、相談に乗ってほしい」

その相談の内容が、メンバーの手に負えるものではなかったので、私はメンバーに同行しました。その相手が彼女だったと言わけです。

その頃のYは、20代の後半。エネルギーが全身に満ち溢れている若き税理士でした。

話を聞いてみると、まだ税理士資格を取って間もないものの、既にたくさんの顧問先を持ち、もっと開拓しようと日々奔走しているということでした。

「経理専門の派遣会社を作りたいの。それに合わせて人材がほしい」

目を輝かせながら語るYは眩しかったことを記憶しています。
当時はまだ、経理専門の派遣会社は珍しい時代でした。

会社を、倒産寸前で何とか復活させた私も、これからという時でした」。

私はYに協力することを約束すると同時に、当社の税務業務の顧問をお願いすることにしました。

あれから20年・・・Yの税理士事務所は規模が大きくなり、経理の派遣会社も
親族の経営者の下、順調に成長していていました。

「売り手と買い手はイーブンの関係。私は黒子に徹します」

私が会社をHの会社にエグジットする話をしたところ、Yは当初、反対を唱えていました。

「がくさんの力量で、もっと会社を伸ばせるはずです」

20年近く、顧問としてそばにいてくれたから、私のこと、会社の財務状況はよく分かってもらっています。

私は今まで、断片的に伝えてきた情報をひとまとめにし、体系立ってYに説明してみました。3年間の事業承継の失敗、業界再編の動き、ベテラン社員との話、HとOとの出会い、そして、会社エグジットの決断をしたこと・・・。

「会社の売却に関して、今までのように、私の相棒になってほしい」

「・・・分かりました」

しばらく沈黙していたYが、口を開きました。

「がくさんがリーダーシップを取ること。それなら、私はあくまで黒子として行動します」

そして、こうつけ加えました。

「売却側も、買収側も、立場はあくまでイーブンです。決裂を恐れず、私たちを、うまく使ってください」

私たち・・・Yと彼女の社員を含めて、ということでした。

長年築いてきた信頼関係は、苦境の時や、変化を余儀なくされた時に発揮されるものだということを、私は改めて知ることになりました。

税理士は、顧問先が会社を売ろうとするのを嫌がる傾向にあります。

売却後には顧問先をなくすことにつながりますし、会社売買の専門家を兼務している人は少ないので、アドバイスを求められても、答えられる人が少ないからです。

その点、信頼関係を築いている私とYであれば、顧問関係が結果消滅するにしても協力し合える、足りないところを補い合えると・・・お互い、そう思ったのです。(続く)

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