「愛の会社エグジット」への道 第7話 「会社を売る方が、君たちの成長につながるから」

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・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・私が会社を第三者に事業承継したのは会社を経営して25年経った時でした。
その間、会社を倒産の危機に追いやったことが2回ほどありました。

応援してくれていた両親が立て続けに他界しました。
複数のベテラン社員を後継者として育成しようとしましたが、ことごとく失敗しました。

そして、ふとしたことがきっかけとなり、1年後には会社を売却することになったというわけです。売却に至るまではさまざまな葛藤がありました。

今回は、シリーズで、そのてんまつを小説仕立てでご紹介します。
読んでいただけたら幸いです。
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会社の将来性、安定性、企業規模・・・社員が求める3つの魅力

計3回の意見交換で分かったのは、以下のようなことでした。

「社長の下で、これからもやっていきたい」

3人のベテラン社員の意見の前提には、必ずと言っていいほど、この言葉が見え隠れしていました。私への遠慮もあったのでしょう。

長年付き合ってきただけに、家族的な人情から出てきた言葉だと思いました。

「今以上に仲間が増えるのは嬉しい」

1人は、そう言ってきました。制作のベテラン社員でした。

会社のエグジット先は、まだ伝えていませんでした。
ただ、当社よりも規模の大きい会社と言ってありますから、当社が会社を売る側であることは分かっていました。

うちは15 人、Hの会社は40 人。同業ということもあり、年齢構成もほぼイーブン。両者とも20 ~30 代の社員が多い会社でした。

当然、仲間は増えることになります。その社員は、そこに着目していたようです。

「もっと専門性も磨きたいし、給料も上がってほしい」

1人は、そう言ってきました。総務・経理のベテラン社員でした。

その社員は、複数の仕事を一手に引き受けて仕事をしているため、一番やりたい仕事に集中できていませんでした。

2社がひとつになれば、規模が大きくなります。

同じ仕事をするスタッフがいるので、仕事が分化されるはず。そうすれば専門性が磨けるというわけです。

●「できたら、今まで通りの商品を扱って、売上を増やしたい」

1人は、そう言ってきました。営業のベテラン社員です。

これは、言わずもがな、はっきりと、会社エグジットの方に軍配を上げていました。

「社長の下で!」と、嘘でもほしかった【ないものねだり】

私の中では、会社をエグジットするという意思固めをしていたものの、私は何とも言えない寂しさに襲われました。

「少人数でもいいから、今の体制で乗り切りましょう!」

「何でもやりますから、任せてください!」

「どんな商品でも売りますよ!」

そんな答えを予測していたわけではありませんが、一言でいい。「社長の下で〇〇を!」という言葉が、嘘でもいいからほしかった・・・。

はっきり言って、これは私の【ないものねだり】です。

なぜなら、仮にそんな言葉が出てきたとしても、「君たちの好意は嬉しい。でもね・・・」と、会社をエグジットする方向に社員を誘導していったからです。

何とも複雑な気持ちでした。

3人のうち、2人はすでに結婚していて、1児の親でもありました。
1人はもうすぐ、結婚することになっています。

社員一人ひとりが長く仕事をしてきた中で、ある社員は大事な家庭を作り上げ、ある社員は作り上げようとしています。

単身で私についてくる時代はもう終わったのだと気づかされました。
彼らには彼らの生活があるからです。

会社の将来性、安定性、会社規模――これは、家庭を持つ人間が仕事をしていく上で重要な要素なのです。

「がくさん、そろそろ決める段階ですね」

私の寂しさを悟られたのか、Oは感傷に浸る私を現実に引き戻してくれました。

「・・・会社を売ることにするよ。その方が、君たちの成長につながるから」

 私は、当分口止めすることを条件に、相手がH社長の会社であることを打ち明けました。(続く)

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