重要顧客に月1回、社長自ら訪問しよう。

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社員に任せっ放しは顧客に嫌われる。

 2008年のリーマン・ショックが起こる2年ほど前のことでした。

起業してから16年の歳月が流れていました。

「吉田君、社員にお客様を任せっ放しにしてはいけないよ」

長年おつき合いのある飲食店のF社長に、私はそう言われました。

経営で悩んだ時、相談に乗ってくれるメンターのひとりでした。

「経営者は、本当の悩みは社員にはなかなか相談できない。君のところの営業社員はよくやってくれるけど、社長である君じゃないと相談できないこともある。そうじゃない?」

そう言われ、私はそれ以降、しばらく反省することになりました。

こちらから一方的に相談するだけで、F社長から今まで悩みを聞くことはありませんでした。勝手にメンターになってもらい、甘えていただけだったのです。

でも逆に捉えると、長年のおつき合いの中で、私自身が相談を向けられるぐらいの存在になっていたのです。

それ以降、私は最低月に1回、F社長を訪問することにしました。

WIN-WINは社長同士だから作れる関係

訪問する中でつかみ取ったこと。

それは、「経営者同士、お互いを高め合う有意義な時間を定期的に担保せよ」ということです。

・昨今の経済環境、将来の経済予測。

・人、モノ、金、情報、時間という経営の5大資源の活用法。

・5大資源の中で、私の主要業務、人材採用の延長線上にある人材の適正配置、教育などの「人」に関する課題解決。

こういう話題は、立場の違いもあり、一営業スタッフと話しても限界があります。

私は、F社長のひと言で気づきました。

今までは、顧客を営業対象としてしか見ていなかったのではないかと・・・。

成長期は、自ら顧客を開拓し、先方の社長と頻繁にやり取りしたものです。

成熟期は、その顧客資産を営業社員に委ね、社員からの報告と相談で顧客に相対していたのです。

でも本来、顧客から信頼を得るということは、WIN-WINの関係を築くということだったのです。

それは基本、社長同士であることが求められます。

そして、信頼関係を担保していくには、営業関係を越えた関係——社長同士の人間関係を作っていく必要があるのです。

振り返ってみると、先方の社長も含め、顧客とのおつき合いを営業社員にすべて委ねている自分がいました。

2社失って気づいた「社長訪問」の重要性

結局、社長同士の人間関係を希薄にしていたのです。

ここで納得したことがありました。

その当時、私の会社は大きな取引先を2社失っていました。

1社は、私が営業に介在することによって再度チャンスをいただきましたが、もう1社は復活するまで、まだ数年はかかりそうな状態でした。ひょっとすると、戻ってこないかもしれないと懸念してもいました。

2社とも、直接の原因は営業社員にありましたが、いちばん大きな原因は、私が先方の社長との人間関係を希薄にしていたことだったのです。

そして、関係回復のために私が介在した行為は、あくまで顧客を失わないための営業行為に過ぎなかったのです。

私はそれ以来、各社の社長を定期訪問し、人間関係の再構築に努めました。

2年後、リーマン・ショックがやってきました。

確かに大きな打撃はありましたが、バブル・ショック時と違い、会社が倒産の危機に瀕するまでにはなりませんでした。

F社長のひと言によって気づきがあり、それを行動に移したことが功を奏したのです。

後日、F社長に聞いてみました。

なぜ、あの時、ああいうアドバイスをしてくれたのかと——。

「自分も同じことで失敗したから、君がそうならないために指摘したんだよ」

F社長は私より10歳ほど先輩。

失敗を経験した社長は、後輩が自分の写し絵になっていたようです。

F社長に心より感謝しています。

●事業承継期は、取引先の社長に定期訪問して人間関係を深め、WIN-WINの人間関係を再構築しましょう。

——垣根は相手が作っているのではなく、自分が作っている—— 
(アリストテレス/古代ギリシアの哲学者)