経営者が飛び上がって喜ぶ瞬間。「君のところの社員がほしい」

treasure-box

社長業を長くやっていると、次のような心の変化を味わうものです。

起業し立ての頃は、社長である自分が取引先に評価されることに喜びを感じるものですが、ある時から自分よりも社員が評価されることを喜ぶようになります。

「ある時から」・・・それは現場の仕事を社員に譲った時からです。

「前任者の2倍がんばらなくちゃ、認めてもらえない」

「君の会社の社員、どうかな。うちでスカウトしていいかな」
技術系企業の社長から、冗談とも本気とも取れる笑顔と眼光鋭い目を向けられ、私は戸惑いました。

「・・・冗談だよ、半分は」
私が戸惑いながらも、取引先の社長のこの言葉を聞き、とてもうれしい気持ちになりました。

スカウトしたいと言ってくれた社員は、社歴3年目の営業スタッフAでした。

顔をくしゃくしゃにして笑う顔が人懐っこく、がんばり屋の社員。取引先から他の顧客を紹介をもらうケースも増えていきました。

1年前に担当を私からAに引き継ぎ、最初は一時的に取引額は減ったものの、時を追うごとに業績が伸びていきました。

そのお礼に私単独で先方の社長にお会いした時に、冒頭のセリフを言われたのです。

「有り難うございます。自分が誉められるよりもうれしいものですね」
私は自分の気持ちを率直に伝えました。

「Aのどこを気に入ってくれたのですか?」
今後のために、私は社長に聞いてみました。

「前任である君以上に一所懸命だからだよ」

私にはないこんなところがあるから・・・という返答を予測していたので、最初はフェイントを食らったような、複雑な気持ちになりました。

一瞬ではありますが、自分が一所懸命ではなかったのかという、ひねくれた思いも顔をのぞかせました。

「Aさんはいつも言っていたよ。“私が認められるためには、前任である社長の2倍以上がんばらなくちゃ、お客様は同等には見てくれません”ってね」

私の心が次第に熱くなっていきました。

「お客様の要望に2倍応えて君と一緒と言っていたよ。その言い方が可愛くてね」

先方の社長は、その時の光景を思い出すように話し始めました。

「Aさんは何度も足を運んで来ては、分厚い資料を持ってきてね。正直、少しうっとうしかったこともあるよ。2倍というのを、どうやら勘違いしているようだった」

社長は、体を震わせながら笑っています。

そして、笑い終わった後、真顔でこう言ってきました。

「いい社員を持ったね。前任に早く追いつき、前任以上に評価してもらおうとがんばる社員は、会社の財産だよ。うちも見習うようにするよ。そのためにもAさんをスカウトしていいかね」

先方の社長は最後まで私をいじり続けました。

「有り難うございます。スカウト代は半端じゃなく高いですよ」
私は冗談を返しながら、先方の社長に感謝の念でいっぱいになりました。

同業のライバルは、顧客の引継ぎのあとを狙っている

取引先の引継ぎには、細心の配慮が必要です。

今までどんな取引状況であったかを、業績数字や先方担当者名、取引実績のみで引き継いでいませんか?

それでは不十分です。

当社の業務内容(求人広告の営業)でいいますと、先方担当者の誰からどれぐらいの取引額を上げたか、求人広告で何人応募があり、どんな人が何人採用になったのかだけで引き継ぐというケースです。

ライバル会社が多い私たちの業界の場合、ライバル会社に取引を奪われることが往々にしてあるからです。

それではどんな引継ぎをするのか――。

ひと言でいいますと、最低限、前任者と同じ情報を持つための引継ぎをすること。

例えば、先方担当者の性格はどうなのか、契約を頂くまでの決裁ルートはどうなっているのか、前任が担当していた間のドラマやトピックス、ライバル会社が入り込んでいるかどうか、うちの会社の評価はどうか等々。

担当する会社を『人』と捉えてみると、つきあい方が見えてくるはずです。

逆に、前任者の評価が低かったり、情報がしっかり入手されていないことが判明するケースもあります。
そんな時は、新たに正確で細かい情報を仕入れ、改めて信頼関係をつくり直す必要があります。

会社は生き物であることを再認識しましょう。

前任以上に信頼関係が強くなり、業績が伸びていくことを経営者は望むはずです。

そして、先方にスカウトされるぐらいの社員が育つことは、とてもうれしく、誇らしいことです。

取引先の引継ぎは入念に、引き継いだ社員には2倍パワーを発揮してもらいましょう。