「愛の会社エグジット」への道 第11話 「大事な娘を嫁に出すとするなら、あなたはどうしますか?

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・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・私が会社を第三者に事業承継したのは会社を経営して25年経った時でした。
その間、会社を倒産の危機に追いやったことが2回ほどありました。

応援してくれていた両親が立て続けに他界しました。
複数のベテラン社員を後継者として育成しようとしましたが、ことごとく失敗しました。

そして、ふとしたことがきっかけとなり、1年後には会社を売却することになったというわけです。売却に至るまではさまざまな葛藤がありました。

今回は、シリーズで、そのてんまつを小説仕立てでご紹介します。
読んでいただけたら幸いです。
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 会社の価値を高く評価してもらう極意はコレ!!

「がくさん(私のニックレーム)、交渉の場で大事なことは、何だと思いますか?」

第2回目の打ち合わせで、最初に顧問税理士のYから出てきた質問がこれでした。

「嘘をつかない。隠し事はしない。謙虚であること」

私が25年間、会社経営を続けて来ることができたのは、人生の諸先輩方、メンターたちから教えられた、この3つの姿勢があったからです。

「・・・そうですね。基本はそれでいいです」

「基本は?」

「そうです。私は、長年がくさんを見てきました。確かに、社員と顧客の資産は、その姿勢によって得たものです。でも、今回の交渉は、一生に1回のものです。

前回も言いましたが、立場は対等です。決裂承知の強さを持ってください」

Yの言葉に、私は身の引き締まる思いがした。
そして、なぜ強さが必要か、彼女の話を整理してみると・・・。

・売り手は高価で、買い手は安価で、と考える。これは当たり前の経済原則である。
・社員の成長のために売却するのだから、社員の受け入れを最大の条件にすべきである。
・高付加価値の会社であることを、ロジカルにプレゼンすべきである。
・会社の弱点を突かれても、決して怯んではいけない。強味で押し返すべきである。
・お互いの歩み寄りはいいが、一方的な妥協はすべきではない。

私は、Yの「べき論」に息が詰まり、知らず知らずのうちに、ため息をついていました。

Yは苦笑しました。

「別にがくさんを脅しているわけではないですよ・・・でもね、売却が成立したら、がくさんの手から、間違いなく、会社は離れるんです。25年手塩にかけた娘が、お嫁に行くんですよ。大事な娘の価値を値踏みされる場で、強さを持たなくて、どうするんですか?」

女性であるYから、会社を嫁に例えて話されると、妙な説得力をもって胸に迫ってきます。

(そうか、僕は会社を手放すんだ)

私は、しみじみそう思いました。

「分かった・・・心して交渉に臨むよ」

(続く)

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