バブルショック。徒歩かタクシーか、それが会社存続の分岐点

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顧客の時間をムダに奪う営業職。いつの世も要らない

営業はオンラインの時代。
そう言われます。

3つの世の流れから、そう言われるのはうなずけます。

・コロナ禍で、非接触の行動が要求されている
・効率が要求される時代。ムダが嫌われている
・ネットのオンライン自体が営業ツールになっている

また、3つの観点から、お金以上に時間に対する価値観が高まっています。

・他人に自分の時間は奪われたくない
・消費行動にかける時間は自分で決める
・同じ価値観を持った仲間たちと時間を共有したい

この世の流れと時間に関する価値観から、営業自体が価値を成さないものと言い切る人も出てきています。

しかし、世の中から消費行動を促す「営業」という行為がなくなることはないでしょう。

私がずっと携わってきた求人広告の代理業は、いち早くIT化、オンライン営業を推し進めてきた業界ではありますが、コロナ禍の中でも、営業スタッフはヒューマンラインで直接顧客を訪問して営業しています。(あえてオフライン営業と言わないのは、オンライン営業が今必ずしも主流ではなく、誤解を避けるためです)

ただ、世の流れと時間に対する価値観に逆行すれば、それこそ営業はいらない行為になります。あくまでも顧客にとって必要なヒューマンラインの営業行為を前提にしなければいけません。

会社の経費をムダに使う営業スタッフ、いつの世も要らない

「ムダな交通費は使うなと言われましたが、遠かったら仕方ないですよね?」

私が求人広告の代理店を経営していた頃のことです。

新人からベテランに成長しようとしている中堅営業スタッフのKが、伏し目がちに、自信のない表情を顔に浮かべて私に質問してきました。

ここ数カ月間、タクシーの使用が増え、Kの交通費がふくれ上がっていることを注意した翌日のことでした。月は翌月に替わっていました。

「なぜ仕方ないのかな?」

「タクシーを使わなければ歩くしかないところも結構あります。遅刻したらまずいですし、1日に回るお客様の数も少なくなりますし・・・時間効率が悪いんですよ」

Kは、あくまでも私と目を合わせないようにして話してきます。
その態度、言動から、後ろめたい気持ちでいることが分かりました。

「遅刻をしないように早く会社を出ればいいし、他の日にたくさん回ればいいじゃない」
わたしはあえて、楽をしようとしているんじゃないかと責めることはしませんでした。

私はストレートな質問に切り替えました。
「Kが先月タクシーを使って訪問したところから、いくらの収入があり、いくらのコストがかかり、いくら儲かったか教えてくれるかな?」

Kは無言になり、うなだれました。
経費が増える一方、Kの売上収入は減っていたから、二の句が継げなかったのでしょう。

生産性にこだわるのではなく、自分が楽をしたいという気持ちでいることは明快でした。

バス終点から徒歩30分。あなたならどうする?

「会社を畳むか畳まないか、その瀬戸際にあった時のこと・・・」
私はかつての体験を語り始めました。

会社を設立した平成元年から3年経った頃、バブルが弾け、会社は危機に瀕していました。

そんな中、ある時、遠方の会社に新規でアポイントが取れました。

名古屋の金山駅から藤が丘駅まで地下鉄で往復580円。藤が丘駅から瀬戸方面の終点のバス停まで往復640円。合せて1220円。結構な交通費です。

それだけではありません。終点のバス停から徒歩なら30分以上かけないと着かない場所にその会社はありました。

タクシーを利用すれば10分もかからずに着きそうです。もし利用するなら、往復で4000円ぐらいかかると見積もりました。

徒歩で30分かけても、まだ約束の時間には間に合いそうです。

(タクシーを利用した方が楽だよ)
そんな囁きも耳の奥で木霊します。

当社の事業で試算すると、徒歩なら5000円の売上収入でトントンです。
タクシーを利用するなら、2万円以上の売上収入を上げる必要があります。

初めての訪問ですから、収入はゼロかもしれません。
そうなると、徒歩なら1220円の喪失、タクシーなら5220円の損失になります。
そして、そこに自分の人件費が加算されますから、何としてでも売上収入を上げる必要がありました。

逡巡の末、私は徒歩で向かうことにしました。

会社が大変な時期でもありましたから、当然と言えば当然でした。

それに、そんな時期にタクシーを使ってしまうと、“楽”に対して経費を遣うクセが身についてしまいます。

「K、僕があの時タクシーを利用していたなら、今の会社はなかったと断言できる。楽を選んでしまったら成長が止まるいい例・・・というか、悪い例だと思わないかい?」

Kは初めて私の目を見て言葉を口にしました。
「その時の利益はどうだったのですか?」

「3万円の売上収入で、7000円程度の利益だった。自分の人件費を除いてね。営業スタッフは、ベテランになったら自分の利益を計算できなくちゃいけない。それが将来のためだよ」

条件つきで「どうしても必要ならタクシーは利用していい」と

顧客と接触するヒューマンラインの営業は、相手の時間を有意義なものにすることはもちろん、自分の営業活動の効率を良くするものでなくてはいけません。

それができれば、営業は世の中にとって、ずっと必要な仕事になります。

ちなみに、私の当時の大型顧客の1社はタクシー会社でした。
タクシー乗務員さんの採用効果を上げるために、タクシーはよく利用していました。乗務員さんの仕事の魅力を発見するためです。

私はKに向かって、こう言いました。
「どうしても必要ならタクシーは利用していい。条件は、乗務員さんの仕事の魅力を発見すること」

私にとって、それは矛盾でも何でもなく、至極当然のことでした。

それに、バブルショック時、中でも3つの業界が苦戦を強いられていました。
広告、交際、交通の頭文字を取った3K業界です。
つかうお金を抑えられる業界、今でいう「不要不急」の業界でした。

私の会社は広告業界、タクシー会社は交通業界。
苦しみは共に、です。

顧客のタクシー会社に少しでも貢献したいという気持ちの力学が働いていたことも事実です。

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