社長は雲の上の人?
会社を設立してから5年ほど経った頃のことです。
20代半ばの男性Sが営業社員として入社してきました。
笑顔が生き生きしていて明るく、誰とでも仲良くなれる男でした。
少し慣れてきた頃、そろそろ営業目標を持たせようと、Sに声をかけました。
「社長が集まる会に一緒に行こう」
企業のトップが集まる会に身を置けば、営業活動の免疫ができるのではないかとの思いからでした。
「えっ!!」
Sの驚愕の悲鳴に、私の方がむしろ驚かされました。
しばしの沈黙・・・。
「社長、そんな雲の上の人たちに会うなんて・・・」
緊張感漂うSの口から、そんな言葉が辛うじて出てきました。
社長は夢を持つ人。語る人。無邪気な人
私は、馴染みの中華レストランの個室に集まる、30~50代の社長連中の輪の中にいました。
隣にはSがいます。
お酒を飲みながらの会食と雑談。
「S君か。まあ、飲みなさい」
ある社長からビールを勧められ、
「そうか、旅が好きなのか。僕もね・・・」
ある社長と趣味の旅談義を持ちかけられるS。
「俺の夢はね・・・」
ある社長からは、自分の事業にかける思いを、Sはシャワーのように浴びていました。
何人かの社長と打ち解け、お開き。
赤ら顔のSの顔からは緊張感が取れていました。
「どうだった?」
翌日、私はSに感想を求めました。
「社長って、自分の夢とか、趣味の話を、子供の様に無邪気な顔をして語ってくれるんですね。とっても人間的でした」
「雲の上の人たちと思っていたんだろう?」
ちょっといじってみました。
「ええ、会おうと思っても会えない人、気難しい人、恐い人・・・そう思っていました」
「そうか。考え方が変わったみたいだね。社長ってね、最終的なことは自分で決め、一番大きなお金を動かし、よっぽどのことがないと、いなくならない人なんだよ。とっても人間的なんだ」
Sは頷きました。
「君にとって、営業する相手は誰がいいのかな?」
№1を取るなら、社長に会うのがいちばんの近道
私は20代の頃、緊張しながらも、極力トップコールを心がけました。
なぜなら、トップは
① 決裁権(人事、予算)を持ち、
② いちばん大きなお金を動かし、
③ いちばん立場の動かない人だからです。
№1の営業スタッフとして伝説を作りたい――そう思っていた自分にとって、トップコールは、必然の流れでした。Sにはまず、そのトップコールを日常化してほしいという思いから、社長の集まる会に連れて行ったのです。