・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・私が会社を第三者に事業承継したのは会社を経営して25年経った時でした。
その間、会社を倒産の危機に追いやったことが2回ほどありました。
応援してくれていた両親が立て続けに他界しました。
複数のベテラン社員を後継者として育成しようとしましたが、ことごとく失敗しました。
そして、ふとしたことがきっかけとなり、1年後には会社を売却することになったというわけです。売却に至るまではさまざまな葛藤がありました。
今回は、シリーズで、そのてんまつを小説仕立てでご紹介します。
読んでいただけたら幸いです。
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お互いが無借金経営。その確認から交渉は順調にスタート
Hとの交渉は、順調にスタートしました。
「お互い、無借金なんだね」
Hは、貸借対照表(B/S)と損益計算書(P/L)を眺めていました。
Hのそばには、相手方の顧問税理士。私の隣にはYが控えていました。
私は、顧問税理士Yのアドバイスをもとに、ここ3年分のB/SとP/Lを持参し、Oに渡しました。
「バブルで会社を潰しかけたからね。もうこりごりと思って、借金はしないことに決めたんだ・・・もちろん、簿外債務も一切ないしね」
私は、けん制の意味も込めて、そう伝えました。
「がくさん、25年間、コツコツ頑張ってきたんだね」
Hは笑顔を浮かべていました。
「お互い手を組むメリットですが・・・」
私は、本腰の交渉に入ることにしました。
まずは、目的の確認。
両者が一緒になることで、大手仕入れ先の要望に応え、さらなる利益体質をつくること。今回の件のきっかけになったことだっただけに、両者とも承認。
次に、当社の強みの確認。
・長年に渡り、優良顧客と契約していること
・社員が成長し続けていること
・無借金であること
・理念経営を実践していること
・長年に渡り、仕入先の評価を受けていること
(仕入先との付き合いは、Hの会社より長い)
さらに、Hの会社の強みの確認。
・顧客数では、東海地区の3本の指に入ること
・社員が成長し続けていること
・無借金であること
・Hの数字の強さには定評があること
・仕入先からの要望に常に前向きに取り組んできたこと
いくつかは共通点、いくつかは、お互いの補強点でした。
「これは、縁かもしれないね」
Hからの承認とも取れる言葉に、私は頷きました。
「提示額はどれぐらいだろう?」
Hが身を乗り出してきました。
出会って間もないビジネスライクな関係ならば、生々しい話は2回目か3回目の会合に回した方がいいでしょう。そして、まずはお互いを知るために、フランクな話に終始すべきでしょう。
でも、二人は長年に渡る知人だったため、話は早くても問題はありませんでした。
そばに控えるそれぞれの相棒が、真顔になった瞬間でした。
(続く)
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