・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・私が会社を第三者に事業承継したのは会社を経営して25年経った時でした。
その間、会社を倒産の危機に追いやったことが2回ほどありました。
応援してくれていた両親が立て続けに他界しました。
複数のベテラン社員を後継者として育成しようとしましたが、ことごとく失敗しました。
そして、ふとしたことがきっかけとなり、1年後には会社を売却することになったというわけです。売却に至るまではさまざまな葛藤がありました。
今回は、シリーズで、そのてんまつを小説仕立てでご紹介します。
読んでいただけたら幸いです。
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「エグジット先の社員よりも成長させること」が唯一のミッション
「がくさん、お断りします」
馴染みの居酒屋で経営渉外のOをスカウトしてみたところ、ものの5分の時間を挟んで、彼は断ってきました。
「取締役営業部長からスタートし、数年間のステップを踏んで社長になってほしい」
それが私からのオーダーでした。
自分は顧問として、会社の統合(PMI)に向けてバックアップしていきたい。
そのためには、どうしてもOが必要でした。
統合する上で、一番重視したのが、社員のモチベーションです。
会社をエグジットする側の社員は、ともすれば受け身の姿勢になりがちです。
優秀かどうかは別として、買収側の社員よりも自分を卑下する傾向にあります。
たとえ、私とHが対等の立場で決めたにしても、当社は子会社、という厳然たる事実からは免れません。どうしても、上下の関係が透けて見えてしまうものです。
あくまでも、会社をエグジットする目的は、「社員の成長」でした。
そのため、3年間は2社の社員同士が交流できる環境は作ることにしたのです。
(Oしかいない)
Oへの渇望感が高まっていきました。
彼は私の社員に信頼されていました。ただ慕われているだけではなく、社員の成長のために、必要な時は、彼は社員を叱咤激励してくれました。
2度目にOに会った時、彼は1枚の提案書を提示してきました。
「がくさん、僕がもしお世話になるのだったら、という思いで綴ってきたものです」
・・・読み終わって、私は複雑な思いでいっぱいになりました。
それは、会社をそのまま続けることが前提ではなく、会社を変えるという提案でした。
Oを最初にスカウトした時、新しい会社にしてほしい、まずは取締役営業部長から、というオーダーだったのですが、彼の提案は違っていました。
新しくするのではない、今の会社から脱して会社を変えるという、似て非なる提案だったのです。
複雑な思いでいっぱいになった理由は、
・25年間の会社を否定されたように感じたこと
・Oの提案を受け入れれば、彼はスカウトできると確信したこと
この2つの思いが重なり合ったからです。
「がくさんの会社です。ご判断はお任せします」
・・・葛藤の2か月間を費やし、私は、彼の提案を受け入れることにしました。
Oと交わしたミッションは、
「3年後の合併までに、当社の社員を、Hの会社の社員よりも成長させること」
その1点でした。
実現できれば、社員は文字通り成長し、3年後の合併によって、新しい会社で活躍してくれることになります。
Oと交わした入社条件は、
・最初から代表権を持った社長のポジション
・私は一切口を出さず、バックアップに徹すること
以上でした。
これからは、Oに大ナタを振るってもらうことになります。
それは、50歳を前に、彼自身が新しいステージでやりたいことでもあったのです。
(続く)
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