桜の季節に思い出す、母が亡くなる前に見せてくれた3回の笑顔。

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桜が満開の季節になりました。

この季節になると、よく母のことを思い出します。

母が亡くなったのは、今から25年前の夏。
名古屋の日赤病院の病室でした。

私はその年、亡くなる前に3回、母の笑顔を目にしました。

1回目は、それこそ桜が満開の時でした。

体が思うように動かなくなっていて、外出することもままならない状態でした。

私はどうにか母に桜を見せてやりたくて、病室から見える桜を手鏡に反射させました。

「母さん、見えるか?」

最初はうまく反射していなかったようで、戸惑った表情をしていましたが、何度か傾きを変えると、コクリと頷き、満面に笑みを浮かべてくれました。

その笑顔を、昨日のことのように思い出します。

2回目は、私が病院から会社に出勤する時のことでした。

私はほぼ毎朝、日赤病院に入院する母に会いに行っていました。
そのために、近くにアパートも借りていたのです。

「今まで有り難うね」

かすれてほとんど聞き取れない声。
それは、渾身の力を込めて口にした母の言葉でした。
しかも、苦しみながらも、顔には笑顔を浮かべ、目を細めています。

「何を言っているんだよ。これからも一緒じゃないか」

母は、小さく頷きました。
私のために頷いてくれたのではないか・・・今ではそう思います。

3回目は、息子を面会に連れて行った時のことでした。

息子はその時、小学校の高学年になっていました。

母は孫の顔を見た瞬間、思いっきり相好を崩し、愛情いっぱいの目をして、自分の孫を見つめています。

母は、しきりに机の方向に顔を向けています。
そこは、テーブルの引き出しでした。

この時、母は声を出すことができない状態になっていましたから、顔と目の動きで判断するしかありません。

引き出しを開けると、財布が入っています。
その時、母の意図を読み取ることができました。

(自分は行けないけど、孫を連れて、そのお金で美味しいものでも食べさせてあげてね)

母は孫を心から可愛がってくれました。
もちろん父もそうでしたが・・・。

その孫が社会人になり、結婚し、子供をもうけました。

私も、おじいちゃんになりました。

母は、ひいおばあちゃんですね(^-^)

(母さん、息子はあの時の笑顔を覚えているよ。これからも、息子家族を見守ってあげてちょうだいね)

桜が満開の季節になりました。