支払サイトの延長によって、倒産の危機から逃れることができた
今から30年前、起業してから3年が経っていました。
バブル・ショックによって会社が傾き、資金不足に陥ろうとしていた時、仕入れ先の責任者から連絡が入りました。
「歯医者に行くお金はあるのか」
Nさんは、私が歯の痛みを抱えて営業活動していることを知っていたのです。
「大丈夫です」
苦しい作り笑いを、Nさんは見透かしたのでしょう。
「体が資本だぞ」
と言った上で、こうつけ加えました。
「支払いサイトを少し延ばそう。ただし、1年間だけ。その間に、資金繰りがうまくいくようにがんばること。いいね」
歯の痛みが遠のいていくように、緊張していた神経が弛緩していった瞬間でした。
出ていくお金より、入ってくるお金が先――小学生でもわかる算式。
入ってくるお金がなければ、出ていくお金の存在はあり得ないのです。
でも、大人になると、時として、ふとその原理原則を外してしまうような血迷い方をするものです。
売上が立っていれば大丈夫だと・・・。
サイトを無視してしまうのです。
合せて、入金サイトを短くしてもらえるよう交渉に当たった
会計的に言い直すと、売掛金が先に現金化できなければ、借りてでも買掛金を現金化しなければいけないのです。
逆も真なりです。
買掛金を後に伸ばしてもらえれば、小学生でもわかる算式は成立するのです。
Nさんは、その後者の方を、私に勧めてくれたのです。
1年の期限つき――Nさんのくれたチャンスを実行できなければ、Nさんの顔をつぶすことになります。
私は、がむしゃらに行動しました。
(まだ会社をつぶしたわけではない。こうしていれば、信頼・信用は回復できる!)
そんな思いで1年間走り抜けました。
売掛のサイトも極力縮めてもらえるよう、お客様に頭を下げました。
1年後、銀行からの借金をまだ返し終わったわけではありませんでしたが、おかげさまで、資金が順調に回るようになりました。
Nさんへの感謝の念は、今も持ち続けています。