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「当たり前でも誰もがやっていなかったこと」を事業化。遊び体験の予約サイトで急成長。
アソビュー株式会社という会社、ご存知ですか?
最近、NHKの「逆転人生」に紹介された会社です。
2020年2月までは、飛ぶ鳥を落とす勢いで急成長してきた会社で、社長は山野智久氏、37歳。大学時代にフリーペーパー事業で成功をおさめるなど、学生起業家として注目されてきた人物です。
その後、私の出身母体でもある㈱リクルートに入社。新規事業も手掛け、当初の計画通り3年で起業。
「遊び」をテーマに、「観光レジャー体験」という予約サイトでビジネスを始めたのです。
山野氏が着目するビジネスは、「当たり前のことだが、誰もがやっていなかったこと」。
旅行の予約は自分で簡単にできるが、現地でどんな遊びをするのかの情報はない。行ってみて、おもしろそうなイベントがあっても、事前予約が既に閉め切られていて参加できない。だったら、遊び自体を予約制にすればいいという発想から興した事業です。
たとえば、行きたい旅行先が秋田だとしたら、まず「秋田」をクリックします。そうすると、いくつかの遊び情報がピックアップされます。
春なら角館(角館)の花見にまつわるイベントがその一つでしょうか。
夏なら竿灯(かんとう)祭りにまつわる参加情報でしょうか。
それを最初から予約できるサイトというわけです。
この事業は大ヒットし、利用者は延べ1200万人。社員は100人に達しました。
100人の社員を前に「解雇はしない!」。そして期限付きの雇用シェアへ。
ところが、2020年のコロナ禍によって、3月以降、利用者は激減。
4月には、売上がほぼゼロの状態になってしまいました。
いわずもがな、旅行人口が激減したからです。
山野氏はそういう状態で、どうしたと思いますか?
社員を前に、こう言ったのです。
「解雇はしない。なぜならイヤだから」
一緒に会社を支えてきた100人の若手社員と共に会社を存続させると決意したのです。
でも、このままの売上では共倒れしてしまうのは時間の問題。
まずは巣ごもり需要を取り込み、家でできる遊びやイベントをサイト上で情報提供。売上が少しアップしたものの、またもや売上ダウン。大きな需要を取り込むことはできませんでした。
(このままではマズイ)
この時、山野氏が編み出した苦肉の策が「雇用シェア」でした。
人材難の会社に期限付きで出向してもらい、雇用を維持するという方法です。
今や、大手外食チェーン店も利用している雇用シェアを、彼はその走りとも言っていい時期に実行したのです。
・1年間の期限付き。
・給料は出向先が支払う。
・出向先と本人のニーズが一致したら転籍もあり。
この3つを条件として、多くの社員が別の会社に出向していきました。
山野氏の考えはこうです。
会社が復活する1年後に、他の会社で筋力をつけてきた社員が、会社をもっと強い体質にしてくれる――。
池袋の人気水族館。コロナ対策への悩みが、事業化のヒントに。
でも1年後ではなく、復活劇はすぐその後に始まり、何と4カ月後には、過去最高益を更新し、V字回復を果たしてしまったのです。
山野氏は、どんな事業をスタートさせたと思いますか?
それが、「レジャー施設の事前予約サイト」の構築・運営だったのです。
ある時、社員からの営業情報で、山野氏の脳にひらめいたものがありました。
まずは、それがどんな情報だったかというと・・・。
コロナ禍にあっても人気を博していた東京の池袋の水族館の話です。
その水族館には、ある悩みがありました。
午後2時~3時に来場者がピークになり、どうしても「密」になってしまうのです。切符売り場にも行列ができ、コロナ対応ができません。
どうしたらいいか・・・そんな悩みでした。
今までの「遊びの予約サイト」の経験も踏まえてのことだったのでしょう。
山野氏は、水族館のサイトに利用者から予約してもらうことで、ピークの時間帯をつくらず、来場時間を平準化する方法を考え出したのです。
今までは、直接窓口、コンビニ等、いくつかの販売ルートを通じてバラバラにチケットが販売されていました。
来場時間をコントロールしようがありませんでした。
それなら、一括予約サイトで管理すればいい。
それが発想の原点でした。
まさに、「当たり前だが、誰もやっていなかったこと」を事業化しようとしたのです。
三密を避け、一方でレジャーを楽しむ・・・この矛盾を両立させた行動エンジンとは?
山野氏が率いるアソビュー株式会社は、この事業で復活しました。
ゼロスタートなら、サイトの完成まで、本来は半年~1年かかるところを、彼らは2週間で仕上げ、水族館に納入しました。
今までの観光レジャー体験の予約サイトのノウハウを応用できたからです。
この件に関しては、山野氏と幹部のプロジェクトリーダーとの間で、喧々諤々のやり取りがあったと言います。
そこでの着地は、「世の中のために、たくさんのレジャー施設に速くこの事業を広めること」でした。
どういうことか・・・。
コロナ禍の中、密を避けながら、一方でたくさんの人たちにレジャーを楽しんでもらうこと。
これが、事業推進の理念になり、行動のエンジンになったのです。
もはや、池袋の水族館だけの特別なプロジェクトではなくなっていったのです。
水族館の事業に貢献した後、この「レジャー施設の事前予約サイト」は一挙に広がりを見せました。
今は140施設が利用し、その数はどんどん増え続けているそうです。
それが、4カ月で過去最高益の理由です。
彼は、笑顔でこう言い放ちました。
「コロナ禍の中、戦国時代の武将はキツイですね」
さて、山野氏のこのV字回復を、彼にしかできない奇跡と捉えるか、そこから何かを学び取るかは人それぞれでしょう。
でも、少なくとも、これから起業しようとしている人なら、彼の偉業を奇跡として特別視するのではなく、一般化して自分のエンジンの中に取り込んでみたらいかがでしょうか。
一般化してみると、こうなるのではないでしょうか。
「当たり前のことだが、誰もやっていなかったこと」を、「社員とともに」「世の中のために」実行すること。
戦国武将、山野氏をどん底から這い上がらせたパワーの源。
一般化してみると、案外あなたの中にも眠っているパワーなのではないでしょうか。
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