・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・私が会社を第三者に事業承継したのは会社を経営して25年経った時でした。
その間、会社を倒産の危機に追いやったことが2回ほどありました。
応援してくれていた両親が立て続けに他界しました。
複数のベテラン社員を後継者として育成しようとしましたが、ことごとく失敗しました。
そして、ふとしたことがきっかけとなり、1年後には会社を売却することになったというわけです。売却に至るまではさまざまな葛藤がありました。
今回は、シリーズで、そのてんまつを小説仕立てでご紹介します。
読んでいただけたら幸いです。
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「相手はなぜ、あなたの会社を欲しがっていると思いますか?」
「相手は、がくさんの会社を、なぜ欲しがっているのでしょうか?いくら長年の友人とはいっても、買収するメリットを感じなければ、応じるわけはありませんからね」
顧問税理士のYは、身を乗り出し、私を諭すように真剣な面持ちで語りかけてきました。
「がくさんも、同業の他の会社ではなく、なぜHさんの会社に売却しようとしているのか?まずは、そこを整理してみましょう」
わたしは、Yの質問に答えるかたちで、会社の売買の理由を整理してみました。
まず、当事者二人が一致している理由は、「2社の売上高を合算すると、仕入先の方針に沿うことができ、今以上の利益が見込めること」だった。
こちら側がHの会社に売却するメリットは――。
・社員を大事にしている会社だから、社員全員を引き受けてくれるだろうと予測。
・Hが同業の社長の中で、いちばん数字に強い社長であること。
・後発企業でありながら、当社の2倍の売上と社員数を誇り、成長株の会社であること。
Hの会社が、こちら側を買収するメリットは――。
・無借金経営であること。
「お客様のそばで自己実現」という経営理念に共感していること。
・社員、顧客資産に魅力を感じていること。
上記のように整理することができました。
「渋沢栄一の『論語と算盤』みたいですね。理念と数字、2つを掛け合せたら、勾玉を合体させたようなパワーを発揮できそうですね」
Yは、その日初めての笑顔を見せてくれました。
「こちらで主導権を握り、有利に交渉を進めましょう。そのためには、事前準備が大事です。今度、これからの手順書を作ってきますね」
次は、その手順書を見ながら話を進めることになりました。
私がいちばん気にしていたのは、Hに提案する売却額でした。
そのことをYに相談してみると・・・。
「もちろん、今度その話もしましょう。ざっくり査定できる方法を伝えますから、がくさん自身が自分で査定してみてください」
私が戸惑っていると・・・。
「がくさんがリーダーシップを執ることですよ。そう言いましたよね」
真剣な表情で、彼女は私を凝視してきました。
(頼もしい相棒だ)
――2023年に続く――
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