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編集から営業への突然の異動。最初は、将来が閉ざされたと思った。
「近い将来、起業したと思っていますが、自分の適性はどうやって見極めたらいいでしょうか?」
自著「失敗しない起業の法則37」を読んでいただいた読者の方からの質問です。
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20代半ばの方からのご質問です。
あなたの質問にお答えする前に、少し、私のサラリーマン時代の話におつき合いください。
新しい求人情報誌の創刊に当たり、編集スタッフとして、東京から名古屋に転勤して3年が過ぎようとしていた頃のことです。
当時、28歳になろうとしていました。
突然上司に呼ばれ、営業スタッフへの異動の辞令が下りたことを知りました。
創刊した求人情報誌は、知名度も実売部数も地域№1となり、少なからず貢献してきたと思っていた自分としては、その異動がとてもショックでした。
できたら、このまま出世し、30歳ぐらいで、編集プロダクションの経営をしようかと密かにに考えていました。
サラリーマンの辞令を拒否すれば、その後の出世に響きます。編集の経験をそれ以上深めることもできません。転職はその時点では論外と思っていました。
会社自体に、もっと自分の成長を後押ししてくれる環境があったからです。
思いつめた末(とは言っても、短時間の葛藤ではありましたが)、私は異動を受け入れました。
28歳でも新人営業。とにかく売ることに専念していたら・・・。
営業セクションに異動になった私は、最初、何をどうすればいいかもわからず、与えられたテリトリーと、覚えたてのセールストークを引っ提げて、のべつ幕なし、無計画に電話営業、飛び込み営業をしてみましたが・・・。
1週間経っても、2週間経っても、1件も契約がもらえないことに苛立っていました。
とぼとぼと名古屋駅周辺を歩いていると、
「吉田さん!」とある人に声をかけられました。
振り向くと、そこには編集時代にお世話になった、印刷会社のT営業部長が立っていました。
私はTさんに誘われ、近くの喫茶店に入ることになりました。
「吉田さん、売りたい!って、顔に書いているよ」
突然、Tさんから、そう切り出されました。
「何も考えず訪問すればいい。ただひとつ、その人の悩みを聞くことだけ。
売りたい気持ちは、背中に背負いなさい」
30分ほどの時間の中で、Tさんはそう言ってくれました。
なぜ営業経験ゼロでも、一番のベテラン営業なのかの理由。
私は、ハッとしました。
何よりも、売りたい顔をむき出しにして企業を訪問していたことに、自分でも気づいたのです。
(そんなことでは売れるわけがない)
ただ聞くだけ・・・私は心にメモしました。
「それともうひとつ・・・吉田さん、君が一番のベテラン営業だって知っている?」
Tさんの言葉に、二度目のショックを覚えました。
「えっ!?」
思わず声が出てしまったようです。
新人営業の私にとっては、文字通り「!?」だった。
「顧客の顧客」を一番知っている人間が強いって何?
「君は、編集の仕事を通じて、いちばん読者を知っている。それは認めるね」
私は頷いていました。
「どのベテラン営業よりもね、それが君の強みなんだよ」
私は、その言葉に、心に抱えていた靄が一挙に晴れるように、気分が高揚していきました。
体の中を、自信がみなぎっていくのが分かりました。
その時、こんなことを思いました。
(読者は、就職・転職を目的に求人情報誌を見ている。自分は編集者として、どの営業よりも読者に接している。後は、企業側がどんな人がほしいか聞き出すことができれば、いちばんいい提案ができるということだ)
私は、その日から、営業の仕方を180度変えました。
・売り込むのではなく、お客様の悩みに耳を傾け、どんな読者を求めているのかイメージングする、というやり方でした。
・すると、不思議なことに、読者の顔と提案内容がすぐ思い浮かぶのです。
・そのマッチング企画の提案の数々が功を奏したのか、私は、1年も経たずに、東海エリアで、営業成績ナンバー1になったのです。
Tさんは、その後、不慮の事故で他界されました。
私にとって、あの時のTさんの言葉は、一人前の営業スタッフに成長するための、とっておきの励まし言葉だったのです。
今の私があるのも、Tさんとのあの出会いがあったからです。
Tさん、有り難うございます。
「適性」実はひとつに絞らなくていい。
さて、編集スタッフの経験を積んで起業しようとしていたのに、営業部門への異動をしぶしぶ受けた私が、なぜ短期間の経験しかしていないのに、営業の会社を起業したのか・・・経験は本当の適性に気づかせてくれます。
私はかつて、営業にはノルマがあり、顧客にすり寄って売上を上げ、会社からはポケベル(当時のメインの連絡手段だった)で縛られるという、今となっては恥ずかしくなるような思い込みをしていました。
ところが、編集時代の読者を一番知っているという経験が役立ち、Tさんからご教授いただいた「ただ聞くこと」を繰り返し行ったおかげで、名古屋のマーケットの中で売上(絶対額、達成率)№1を取ることができました。
営業の経験を通して、私はこんなことを振り返っていました。
・顧客の顧客(顧客である会社側が採用したい対象者/つまり、求人情報誌の読者)を一番知っている人が、顧客に一番貢献できる営業であると気づいたこと。
・聞く力、伝える力を、自分自身が持っていることに気づいたこと。
(編集として読者に接することは、本来の営業の要素を多分に持っていた)。
つまり、自分には営業する力があったことにびっくりしたこと。
・編集よりも営業の方が、企業情報を早くキャッチでき、しかも、お金を介しての契約行為に新鮮な驚きを持ったこと。
そして、私はひとつの結論を導くことができました。
自分のいちばんの適性は、営業の仕事をすること。
そのことに気づき、私は営業主体の会社をつくることで起業したのです。
各企業の人材採用をお手伝いする営業の会社ですが、顧客の開拓に伴う仕事は、求人広告をつくる仕事、採用成功に向けた企画立案をする仕事、つまり、クリエイティブな仕事がセットでついてきます。
私は、編集の仕事を捨て、営業の仕事に乗り換えて起業したのではなく、適性の一番目を営業にして、好きな編集の経験をセットで考えたら、この仕事で起業することになったということです。
あなたの「適性」の質問にお答えします。
ここで読者のあなたの質問に戻ります。
「自分の適性は、どうやって見極めたらいいでしょうか?」
2つ3つと、経験をしてみるということです。
そうすれば、適性のある仕事がはっきりするのではないでしょうか。
一途に編集で身を立てると考えていた自分が、思いがけない社内異動の鶴の一声によって、本来の適性に気づいたのです。それも思い違いをしていた仕事をしぶしぶ引き受けた末の「まさか」です。
あなたの周りにもいるはずですよ。
経験した見たら「まさか」の仕事に出会ったとか、なんとなくやってみたら、これでいこうと思ったなんていることは、枚挙にいとまがないはずです。
あなたも、そんなことがありませんでしたか?
20代半ばでしたら、ひとつに固執せず、いろいろ経験してみましょう。
振り返ってみたら、意外な起業をしていた、という風になるかもしれませんよ。
☆起業に関するご質問がありましたら、お気軽にお問い合わせください。ブログ等でお答えしますね(^-^)