「愛の会社エグジット」への道 第4話 社長の権限、身内への承継にこだわっている情けない我が身

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私が会社を第三者に事業承継したのは会社を経営して25年経った時でした。
その間、会社を倒産の危機に追いやったことが2回ほどありました。
応援してくれていた両親が立て続けに他界しました。
複数のベテラン社員を後継者として育成しようとしましたが、ことごとく失敗しました。

そして、ふとしたことがきっかけとなり、1年後には会社を売却することになったというわけです。売却に至るまではさまざまな葛藤がありました。

今回は、シリーズで、そのてんまつを小説仕立てでご紹介します。
読んでいただけたら幸いです。
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私のプライドが、会社エグジットにブレーキをかけた

僕の中を、プライドとジェラシーが駆け巡る日々が続きました。

(もう人の下では働きたくない。僕は社長なんだ)
(社歴も浅く、僕より年下なのに、なぜHが上になるんだ)

湧き上がってくる、この何とも処理し切れない気持ち。

「人間だから、プライドもジェラシーもあるさ」と、その感情を受け止めてみるものの、何の解決も生み出すものではありませんでした。

一方、もう一人の自分は、冷静になれ!と指令を送ってきます。

1カ月後、私は、自分の中の葛藤からやっと抜け出すことができました。
それは、実にシンプルなことでした。

会社を売ることによって上下関係ができるわけではない。逆に、上下関係から解放されることだと分かったからです。エグジット先の社長との上下関係は、現社員との間に生じる関係であって、自分が望んで部下にならない限り発生しません。

そう気づいた時、私は再びHに会うためにアポイントを取ることにしました。

自分は何のために会社を売るのか、実は本当の理由に気づいていなかった

「仮に一緒になるなら・・・」と、同業社のHと話し合いを進めながらも、私は会社をエグジットすることに対して、まだ抵抗感がありました。

(やっぱり社長を続けたい)
心の奥底では、そう叫んでいました。

(会社の将来は親族か幹部社員に委ねたい)
5人の後継者候補を失い、息子に嫌な思いをさせた失敗経験をしながら、懲りずにそう思う自分もいたのです。

この抵抗感は、自分が手塩にかけてきた会社に対する思いから出てきたものであることが今は分かります。

(過去を断ち切らなくちゃ、前に進めない)
当時、私は迷路の中で右往左往していました。

そんな時、仕入れ先の経営渉外スタッフのO氏が声をかけてきました。
彼は、私の会社が成長するための、相棒のような存在でした。
仕事に関しては厳しい面もありましたが、元来は人情派の男です。

当時の私は53歳、Oは47歳。当社の経営渉外スタッフになって5年経っていました。

「がくさん(私のあだ名)、何か悩みがありますね?」
Oはストレートに切り込んできました。

ベテラン社員に、会社の行く先について意見を聞こうとしていた矢先だったため、きっと、その悩みが顔に出てしまったのでしょう。

私は、「仮に一緒になるなら・・・」を前提に、Hと会社の売買の話をしていること、ベテラン社員にどう話を持ちかけたらいいか悩んでいることを打ち明けました。

「がくさん、何のために、誰のために事業承継するんですか?」
Oは、そう質問してきました。(続く)