・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・私が会社を第三者に事業承継したのは会社を経営して25年経った時でした。
その間、会社を倒産の危機に追いやったことが2回ほどありました。
応援してくれていた両親が立て続けに他界しました。
複数のベテラン社員を後継者として育成しようとしましたが、ことごとく失敗しました。
そして、ふとしたことがきっかけとなり、1年後には会社を売却することになったというわけです。売却に至るまではさまざまな葛藤がありました。
今回は、シリーズで、そのてんまつを小説仕立てでご紹介します。
読んでいただけたら幸いです。
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3人のベテラン社員に突きつけた、3つの選択肢
会議室のテーブルをはさんで、向こう側にベテラン社員が3人、私の右側には、仕入先の経営渉外スタッフ、Oが控えていました。
「実はね、仕入先から大きな要望があってね。これからの売上目標が、今の目標の数倍に設定されることになったんだ。その目標がクリアできれば、今まで以上の利益が出る。でも、逆にクリアできなければ利益が減るということ。仕入先から、もう一段上を目指す会社になってほしいという、これは前向きな要望なんだ」
私は、社員になるべく大きなショックを与えないよう、理解しやすい言葉で前向きに話すように心がけました。
そして、仕入先からの要望に応えるためには3つの選択肢があり、どれを選ぶか、3人のベテラン社員の意見を聞きたいと、今回の会議の趣旨を伝えたのです。
①今の仕入先以外の仕入先とも契約し、商品の数を増やして売上増を図る。
②利益率の高い他の事業も手掛ける。
③同業の会社と一緒になり、仕入先の要求に応える。
①と②なら、仕入先の要望には応えられず、独自路線を歩むことになります。
③なら、仕入先の要望に応えられます。
私は、変なバイアスがかからないように、その日は相手の社名は伏せることにしました。
「社長のもとで、これからもやっていきたい」と3人は言うものの・・・
実は、もうひとつの選択肢がありました。
それは、社員を半減することでした。
(バブル、リーマンの二の舞、いや、三の舞はしたくない・・・)
それが私の正直な気持ちでした。しかも、リーマンショックは、つい3年前の話でした。
とはいうものの、ことの重大さを伝えるためには、避けて通るわけにはいかない話でした。
「現状のまま、社員を半減するという方法もあるけど・・・僕はもう、社員に辞めてほしくないんだ!」
そう、社員をリストラするのではなく、社員の成長のために事業承継すると決めたわけですから、会社をエグジットした方がいい・・・それが私の用意している結論でした。でも、まだそのことは伏せていました。彼らの本音が知りたかったからです。
3人の顔が引き締まりました。
「会社の将来を決める大事な話なんだ。今のがくさん(私のニックネーム)の話をどう思うか、自分にとってどうかという視点でいい。忌憚のない意見を言ってくれ。がくさんも受け止めると言っているから、正直に話してくれて大丈夫だよ」
Oはここで、初めて口を開きました。
「社長のもとで、これからもやっていきたい」
営業のベテラン社員が、しばらくの沈黙の後、口火を切りました。
その両脇のベテラン女性社員2人が、同時にうなずきました。
(嬉しいけど、本音は違うところにあるかもしれない)
私はそう思いました。
その日を起点に、計3回の意見交換が行われることになりました。(続く)
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