(前回より)
「がくさん、お断りします」
馴染みの居酒屋で経営渉外のO氏をスカウトしてみたところ、
ものの5分の時間を挟んで、彼は断ってきました。
「取締役営業部長からスタートし、数年間のステップを踏んで社長になってほしい」
それが私からのオーダーだったのですが・・・。
社員に頼られている人を新社長にしたいという切実なる思いが・・・。
私は悩みました。
自分は顧問として、会社の統合(PMI)に向けてバックアップしていきたい。
そのためには、どうしてもOが必要だったのです。
統合する上で、一番重視したのが、社員のモチベーションです。
会社を売却する側の社員は、ともすれば受け身の姿勢になりがちです。
優秀かどうかは別として、買収側の社員よりも自分を卑下する傾向にあるのです。それが、人情というものです。
たとえ、私と売却候補先のH氏が対等の立場で決めたにしても、当社は子会社、という厳然たる事実があるからです。
どうしても、上下の関係が透けて見えてしまうのです。
それもあって、3年後には合併することにしたのですが・・・。
あくまでも、会社を売却する目的は「社員の成長」でした。
そのため、3年間はH社と同居。
2社の社員同士が交流できる環境を作ることにしたのです。
(Oしかいない)
Oへの渇望感が日ごとに高まっていきます。
3年以上の社員との交流を通じて、Oは社員に信頼されていました。
ただ慕われているだけではなく、社員の成長のために、必要な時は、彼は社員を叱咤激励してくれました。
今の会社を脱して、会社を変えるという提案に・・・。
2度目にOに会った時、彼は1枚の提案書を提示してきました。
「がくさん、僕がもしお世話になるのだったら、という思いで綴ってきたものです」
・・・読み終わって、私は複雑な思いでいっぱいでした。
会社をそのまま続けることが前提ではなく、会社を変えるという提案だったからです。
Oを最初にスカウトした時、新しい会社にしてほしい、まずは取締役営業部長から、というオーダーだったのですが、彼からの提案は全く違っていました。
新しくするのではない、今の会社から脱して会社を変える、という似て非なる提案だったのです。
複雑な思いとは、
・25年間の会社を否定されたように感じたこと。
・Oの提案を受け入れれば、彼はスカウトできると確信したこと。
という真反対の感情がぶつかり合ったからです。
「がくさんの会社です。ご判断はお任せします」
・・・葛藤の1カ月が過ぎた後、スカウトは成就しました。
彼と交わしたミッションは、
3年後の合併までに、当社の社員を、O社の社員よりも成長させること。
その1点だった。
実現できれば、社員は文字通り成長し、新しい会社で定着してくれる・・・。
そして、Oと交わした入社条件は、
・最初から代表権を持った社長のポジション。
・私は一切口を出さず、バックアップに徹すること。
以上でした。
これからは、Oに大ナタを振るってもらうことになります。
それは、彼自身が、新しいステージでやりたいことでもあったのです。