・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・私が会社を第三者に事業承継したのは会社を経営して25年経った時でした。
その間、会社を倒産の危機に追いやったことが2回ほどありました。
応援してくれていた両親が立て続けに他界しました。
複数のベテラン社員を後継者として育成しようとしましたが、ことごとく失敗しました。
そして、ふとしたことがきっかけとなり、1年後には会社を売却することになったというわけです。売却に至るまではさまざまな葛藤がありました。
今回は、シリーズで、そのてんまつを小説仕立てでご紹介します。
読んでいただけたら幸いです。
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会社の価値を高く評価してもらう極意はコレ!!
「がくさん(私のニックレーム)、交渉の場で大事なことは、何だと思いますか?」
第2回目の打ち合わせで、最初に顧問税理士のYから出てきた質問がこれでした。
「嘘をつかない。隠し事はしない。謙虚であること」
私が25年間、会社経営を続けて来ることができたのは、人生の諸先輩方、メンターたちから教えられた、この3つの姿勢があったからです。
「・・・そうですね。基本はそれでいいです」
「基本は?」
「そうです。私は、長年がくさんを見てきました。確かに、社員と顧客の資産は、その姿勢によって得たものです。でも、今回の交渉は、一生に1回のものです。
前回も言いましたが、立場は対等です。決裂承知の強さを持ってください」
Yの言葉に、私は身の引き締まる思いがした。
そして、なぜ強さが必要か、彼女の話を整理してみると・・・。
・売り手は高価で、買い手は安価で、と考える。これは当たり前の経済原則である。
・社員の成長のために売却するのだから、社員の受け入れを最大の条件にすべきである。
・高付加価値の会社であることを、ロジカルにプレゼンすべきである。
・会社の弱点を突かれても、決して怯んではいけない。強味で押し返すべきである。
・お互いの歩み寄りはいいが、一方的な妥協はすべきではない。
私は、Yの「べき論」に息が詰まり、知らず知らずのうちに、ため息をついていました。
Yは苦笑しました。
「別にがくさんを脅しているわけではないですよ・・・でもね、売却が成立したら、がくさんの手から、間違いなく、会社は離れるんです。25年手塩にかけた娘が、お嫁に行くんですよ。大事な娘の価値を値踏みされる場で、強さを持たなくて、どうするんですか?」
女性であるYから、会社を嫁に例えて話されると、妙な説得力をもって胸に迫ってきます。
(そうか、僕は会社を手放すんだ)
私は、しみじみそう思いました。
「分かった・・・心して交渉に臨むよ」
(続く)
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